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意義が仕事に与える影響

well-beingの重要性」にて、well-being(満たされた状態)であるために必要な要素の一つとして意義(Meaning)があることを紹介しました。

 

意義とは「自分より大きいものへの価値を感じること」です。例えば、所属する部署が成果を上げることに意味を感じる時、企業のビジョンを実現しようとする時、社会問題に対して取り組んでいる時、人は意義を感じています。

 

意義を感じながら仕事をすること、意義を感じながら生きていくことは、well-beingにとって非常に重要です。また、企業経営の観点からも従業員が意義を感じているかどうかは注目すべきポイントです。

 

企業経営における意義の重要性については、米グーグル社が労働生産性向上のために実施した「プロジェクトアリストテレス」が参考になります。グーグル社で成功したチームの要素は「心理的安全性」「信頼性」「構造さと明確さ」「意義」「影響」であると明らかにされました。個人的の要素の強い「意義」は、比較的高めやすく、効果が出やすい取り組みです。

 

では、従業員の意義をどのように高めていけばいいのでしょうか。

意義の構成要素は「つながり」「目的」「ストーリーテリング」です※1。企業経営の観点から見ると、特に重要なのが「目的」です。

 

「自分たちが何のために働いているのか」「自分たちがどのように顧客・社会に価値を生み出していくのか」といった目的を経営層・従業員が共有することができていると、「この企業の一員としてどのように行動すべきか」という行動規範が自然と発生します。この行動規範が企業全体を一段高いレベルに押し上げるのです。

そのため、アメリカでは目的を従業員に共有する「パーパス(目的)・マネジメント」が重要視されるようになっています。日本でも、組織課題として目的の共有に取り組む企業が増えてきました。

 

実際にハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフィム教授の研究によると、従業員が目的を明確に持ち、かつ経営の明瞭さがある(例:組織がどう前進し、どのように到達するかについってマネジメントが明確な展望を持っている)企業については、財務・証券取引実績で優れていることがわかっています。※2

 

ただし、目的は上からの押し付けでは効果がありません。例えば、経営理念・ビジョンなどを経営層・上司が一方的に押し付けるだけでは、部下が個人の「意義」を持つことにはならないことです。

 

私が以前所属していたある企業では、毎日経営理念を唱和していましたが、従業員がその経営理念を意識した行動ができていませんでした。それでは効果がありません。

 

では、企業の目的を伝播し、従業員個人にとっての「意義」へと変えていくためには、どうすればいいのでしょうか。

以下の3つのプロセスが必要になります。

  目的の明確化

  目的を深く考える場づくり

  目的と日常的に接する仕組みづくり

 

それぞれのプロセスに時間をかけて丁寧に実行していくことで、徐々に目的が浸透していき、従業員の行動変容に繋がっていきます。

②目的を深く考える場づくりなどを目的として、研修の一部に組み込むだけでも効果があります。

 

ある流通業のセールスドライバーの方々へ研修を行った際に、自分の活動がお客様にどんな価値・喜びを与えるのかを考えてもらったことがあります。すると、あるドライバーの方がお客様に喜んでもらった感動的なストーリーを語りました。それをグループで共通の言語に落とし込んだことでドライバーの方々に目的が宿りました。後日になって仕事に対する取り組み姿勢に変化があったと聞きました。

 

意義については、「ビジョン」「経営理念」「志」などという形で重要視してきた日本企業は少なくありません。実際に日本の風土と合う考え方だと思われます。

ここ近年は、企業の目的を従業員個人の意義として伝播していくための手法が複数生まれててきています。

 

企業の利益のためにも、従業員のwell-being促進のためにも、経営層の方々には、意義に目を向けていただきたいと思います。

 

 

1 Emily Esfahani SmithThe POWER of MEANING」より抜粋。

2 ハーバード・ビジネス・レビュー21093月号より抜粋。